トップダウン構造
○例1:従来の研究では,陰極に加えて,陽極も用いることで,電気刺激で活動させる神経細胞の範囲を限局させる手法が提案されている
[段落の主題].例えば [関連研究の列挙],陽極と陰極を組み合わせたカフ電極は,陽極で活動電位の伝播を阻止できるため,所望の一方向だけに活動電位を伝播させられる (10)-(12).また,刺激部位を限局させるために,「steering current」と呼ばれる弱い陰性刺激と陽性刺激で,電極付近の神経細胞を閾値下で予め,それぞれ,脱分極,過分極させておく手法も提案されている (13)-(16).さらに,これらの手法を応用して,人工内耳のための多点同時刺激法も提案されている (17)-(19).このように,陰極刺激と陽極刺激を組み合わせた多点同時刺激法は,将来的な技術として有望である
[再び段落の主題(段落の主題→例示→要約); 第一文と最終文の主張は同じ].
○例2:位相同期の変化は,LFPの振幅の変化を反映する可能性がある[段落の主題]。特に,LFPの各帯域の振幅が小さいと,瞬時位相が不明瞭になり,その結果として,PLV値も減少するため,振幅と位相は正の相関関係になる。しかし,本実験の結果ではVNS刺激後に,パワースペクトルの値は増加しておらず,周波数帯によっては,逆に有意に減少した(図4 (c))。したがって,上記実験で報告した同期度の増加は, LFPの振幅を反映しているわけではない[再び段落の主題]。
○例3:VNS直後の位相同期の上昇は,刺激強度や刺激周波数の増加に伴うわけではない(図4 (b))[段落の主題]。その原因の一つとして,迷走神経内のC線維の作用が考えられる。同線維は,高電流でのみ活動電位を発生するが,その際,脳波の脱同期を引き起こす (19)(20)。本実験でも,刺激電流値が1.0 mA以上の条件や刺激周波数が30 Hz以上の条件では,C線維が活性化され, LFPの脱同期 [前文のキーワードを継承]を引き起こした可能性が考えられる。ただし,本研究での解析対象は,VNS開始直後の位相同期に限定した。図4 (a)のように,1.0 mA以上の刺激条件では,位相同期の上昇はVNS開始直後ではなく,VNS終了後,しばらく経ってから認められる [例外も正直に丁寧に記述]。したがって,弱いVNSと強いVNSでは,作用機序が異なる可能性もある(21) [再び段落の主題]。
○例4:神経活動パターンは,神経ネットワークの形状に依存している(1), (2) [段落の主題].したがって,神経活動パターンの可塑性は,ネットワーク形状の変化も伴うはずである.その端的な例として,神経細胞の新生に関わる現象が挙げられる.神経細胞の新生は,個体の発生期においてだけでなく,成体においても認められ,新生した神経細胞は,既存の神経回路に取り込まれる(3)-(6).このような神経新生を伴うネットワークの変化は,認知・記憶機能に重要な役割を担っている可能性がある.例えば,神経幹細胞を破壊され神経新生を行えなくなったマウスは環境識別能力が低下する(4).また,神経新生は常に一定の割合で行われているわけではなく,記憶を駆使しているとき,積極的に身体を動かしているとき,妊娠しているときなどに活発になる.逆に,加齢やストレスにより,神経新生は不活発になる(5).これらの知見から,神経ネットワークは,生体の状態に応じて,神経新生を伴いながら絶えず変化しており,その結果として,神経活動パターンの可塑性も生じると考えられる
[再び段落の主題].
○例5:細胞の電極面への接着性が,本実験の結果の解釈に影響を及ぼす可能性は二つ考えられる
[段落の主題(問題提起)].第一に,接着が弱いことによって,細胞が移動しやすくなり,さらに,その神経細胞の活動電位は小さく観測される.第二に,その結果としてS/N比が低下し,発火頻度が小さく見積もられる.これらの可能性が正しければ,移動する神経細胞ほど活動電位を十分に測定することができないため,神経細胞の移動量と活動電位の絶対値には有意な負の相関が見られるはずである.しかし,本実験では,これらの間には有意な相関が見られなかった (図8).したがって,移動する神経細胞の活動は,移動距離には依存せず,同程度のS/N比で妥当に観測されたと考える[再び段落の主題(問題提起に対する回答)].
ボトムアップ構造
○例1:細胞外の電極による電気刺激の強さとそれで作用できる神経細胞までの距離との関係は,古くから実験的に調べられている(6) [既存の事実].また [並列・追加の接続詞],これらの実験データを説明するために,数学的なモデルも提案されている
(7)-(9) [別の既存の事実].これらの先行研究によると,任意の細胞外電位分布Veを与えたときに,神経の膜電位Vmの挙動は,
で与えられる.ただし [説明・補足の接続詞],d は軸索の直径,ρi は細胞内の抵抗率,cm は単位面積あたりの細胞膜の静電容量,ii は単位面積あたりの細胞膜を通過するイオン電流,t は時刻,x は軸索方向の座標である.ここで
[指示語による接続],細胞外の電位分布Veの軸索方向に対する二次微分
は,「活性化関数 (activating function; AF)」と呼ばれ,神経の挙動を定性的に説明できる.この関数が正の場所では,神経は脱分極し,負の場所では過分極する.なお [並列・追加の接続詞],陽極と陰極の電気刺激は,活性化関数を考えると,電極付近で神経をそれぞれ過分極,脱分極させる.したがって [順接の接続詞],通常の電気刺激は,神経を脱分極させるために陰性の電流パルスを用いる.しかし[逆接の接続詞],陰性の電流パルスは,電極周辺の神経細胞しか脱分極させられないため,神経刺激装置の効果は電極の配置に大きく依存してしまう
[既存の事実の組み合わせ→問題提起].
○例2:著者らは,これまでに,電極間の任意の神経,または,深部の神経を選択的に刺激できる手法として,複数の陽極・陰極刺激を組み合わせた多点ゲート刺激法を提案し,その有効性を示した (20) [既存の事実].しかし,実際に同刺激法を適用しようとすると,電極アレイの形状,各電極に印加する電流の強度・パルス幅・タイミングなど,多くのパラメータを決定しなければならない
[問題点].そこで,本稿では,神経束のシミュレーションモデルを用いて,同刺激法の刺激パラメータを考察する
[事実→問題点→問題提起].
○例3:培養神経細胞を用いた脳機能研究では,従来,神経細胞に電気刺激を与えるために微小多点電極アレイ (Microelectrode array, MEA) が用いられてきた (1)-(3)
[既存の事実].
しかし[逆接の接続詞],MEA を用いた電気刺激の分解能や形状は,微小電極の数や密度に制約を受ける
[問題点].
この問題を解決するための有用な手法の一つに,光アドレス法を用いた計測・刺激手法がある(4)-(10) [問題提起].
培養基板に光導電性物質を用いることで,光照射で計測・刺激位置を指定できる. これまでに,Si 単結晶 (4)-(7)や水素化アモルファスシリコン(8)-(10) (hydrogenated amorphous silicon, a-Si:H) を用いた光アドレス電極が提案されてきた[事実→問題点→問題提起].
○例4:A-Si:H を用いた光アドレス電極は,Si 単結晶を用いたそれと比較して,光導電層を薄膜で形成できるため,i) 光アドレスの分解能を向上できる点(11),ii) 基板の上下両方向から光を照射することで,光アドレス刺激と同時に光学計測が可能になる点で有利である[既存の事実].
従来の a-Si:H 電極[キーワードの繰り返し]は,培養液から a-Si:H を保護するために,複雑な構造を有する保護層を必要とした
[問題点].
そこで筆者らは,スピンコートで成膜できる低導電性防水膜を保護膜として用いることで,a-Si:H電極の製作工程を飛躍的に簡略化できることを示してきた(12), (13). しかし,その分解能や同時蛍光計測の可否は未評価である [事実→問題点→問題提起].
○例5:VNSにより,gamma帯域では,聴覚皮質内の位相同期 (AC-AC) が,聴覚皮質内外の位相同期 (nAC-AC) よりも上昇した(図5 (b) (v), (vi))[実験の事実]。gamma帯域の神経活動[前文のキーワードを継承]は,GABA作動性の抑制性介在ニューロンにより調整された局所的な神経活動を反映する (18)。これらの介在ニューロンは,視床からのフィードフォワード入力を受けている。聴覚皮質内のニューロンには,聴覚系の視床領域,すなわち,内側膝状体から支配的なフィードフォワード入力
[前文のキーワードを継承] があるので,この入力が強くなれば,聴覚皮質内の位相同期は,聴覚皮質内外の位相同期よりも強くなるはずである。また,視床から皮質への入力は,コリン作動性の受容体によって調整されており,アセチルコリンが供給されると,内側膝状体の腹側核から一次聴覚野への入力が亢進される (22)。これらの知見を整理すると,VNSが,マイネルト基底核を介して,コリン作動性の神経系を活性化し,それにより,内側膝状体の腹側核から聴覚皮質へのフィードフォワード入力を選択的に亢進させたと考えられる。このようなフィードフォワード入力の選択的な亢進は,gamma帯域において,聴覚皮質内の位相同期が聴覚皮質内外の同期よりも上昇した現象を説明できる [実験の事実→既存の知見→メカニズムの推論]。