序論や考察の構成,各段落の役割と構成(黄色),各文のつなぎかた(青色)などに注意して読んでみましょう.

 

序論の記述例1

1.はじめに

生体内に電極アレイを埋め込み,神経組織の電気刺激で生体機能を代替する治療では,電極の数,密度,配置に関わらず,所望の神経を選択的に刺激できる手法が有用である [論文の主題]特に,刺激したい神経細胞は表層に露出しているとは限らないため,表面の電極アレイで任意の深さの神経を刺激できる手法の開発が望まれている (1)-(5)

 

細胞外の電極による電気刺激の強さとそれで作用できる神経細胞までの距離との関係は,古くから実験的に調べられている(6) [一般的な先行研究の紹介]また [並列・追加の接続詞],これらの実験データを説明するために,数学的なモデルも提案されている (7)-(9)これらの先行研究によると,任意の細胞外電位分布Veを与えたときに,神経の膜電位Vmの挙動は,

 

で与えられる.ただし [説明・補足の接続詞]d は軸索の直径,ρi は細胞内の抵抗率,cm は単位面積あたりの細胞膜の静電容量,ii は単位面積あたりの細胞膜を通過するイオン電流,t は時刻,x は軸索方向の座標である.ここで [指示語による接続],細胞外の電位分布Veの軸索方向に対する二次微分 は,「活性化関数 (activating function; AF)」と呼ばれ,神経の挙動を定性的に説明できる.この関数が正の場所では,神経は脱分極し,負の場所では過分極する.なお [並列・追加の接続詞],陽極と陰極の電気刺激は,活性化関数を考えると,電極付近で神経をそれぞれ過分極,脱分極させる.したがって [順接の接続詞],通常の電気刺激は,神経を脱分極させるために陰性の電流パルスを用いる.しかし[逆接の接続詞],陰性の電流パルスは,電極周辺の神経細胞しか脱分極させられないため,神経刺激装置の効果は電極の配置に大きく依存してしまう[先行研究の問題点で段落を締める]

 

従来の研究では,陰極に加えて,陽極も用いることで,電気刺激で活動させる神経細胞の範囲を限局させる手法が提案されている [前段落で述べた問題点に挑んだ先行研究の紹介]例えば [関連研究の列挙],陽極と陰極を組み合わせたカフ電極は,陽極で活動電位の伝播を阻止できるため,所望の一方向だけに活動電位を伝播させられる (10)-(12)また,刺激部位を限局させるために,「steering current」と呼ばれる弱い陰性刺激と陽性刺激で,電極付近の神経細胞を閾値下で予め,それぞれ,脱分極,過分極させておく手法も提案されている (13)-(16)さらにこれらの手法を応用して,人工内耳のための多点同時刺激法も提案されている (17)-(19)このように,陰極刺激と陽極刺激を組み合わせた多点同時刺激法は,将来的な技術として有望である [先行研究のまとめ]

 

著者らは,これまでに,電極間の任意の神経,または,深部の神経を選択的に刺激できる手法として,複数の陽極・陰極刺激を組み合わせた多点ゲート刺激法を提案し,その有効性を示した (20) [著者らの先行研究]しかし,実際に同刺激法を適用しようとすると,電極アレイの形状,各電極に印加する電流の強度・パルス幅・タイミングなど,多くのパラメータを決定しなければならない [著者らの先行研究の問題点]そこで,本稿では,神経束のシミュレーションモデルを用いて,同刺激法の刺激パラメータを考察する [研究の目的]

 

 

序論の記述例2

培養神経細胞を用いた脳機能研究では,従来,神経細胞に電気刺激を与えるために微小多点電極アレイ (Microelectrode array, MEA) が用いられてきた (1)-(3) [一般的な先行研究の紹介]しかし[逆接の接続詞]MEA を用いた電気刺激の分解能や形状は,微小電極の数や密度に制約を受ける [先行研究の問題点]この問題を解決するための有用な手法の一つに,光アドレス法を用いた計測・刺激手法がある(4)-(10) [問題点に挑んだ先行研究の紹介]. 培養基板に光導電性物質を用いることで,光照射で計測・刺激位置を指定できる. これまでに,Si 単結晶 (4)-(7)や水素化アモルファスシリコン(8)-(10) (hydrogenated amorphous silicon, a-Si:H) を用いた光アドレス電極が提案されてきた [キーワード(光アドレス電極)の繰り返し]

 

A-Si:H を用いた光アドレス電極 [キーワードの繰り返し]は,Si 単結晶を用いたそれと比較して,光導電層を薄膜で形成できるため,i) 光アドレスの分解能を向上できる点(11)ii) 基板の上下両方向から光を照射することで,光アドレス刺激と同時に光学計測が可能になる点で有利である[著者らの先行研究]. 従来の a-Si:H 電極[キーワードの繰り返し]は,培養液から a-Si:H を保護するために,複雑な構造を有する保護層を必要とした. そこで筆者らは,スピンコートで成膜できる低導電性防水膜を保護膜として用いることで,a-Si:H電極の製作工程を飛躍的に簡略化できることを示してきた(12), (13)しかしその分解能や同時蛍光計測の可否は未評価である.

 

本研究では,同電極の光電気特性を明らかにし,光アドレス刺激と同時に蛍光色素を用いた光学計測が可能な実験系を構築する. また,同実験系を用いて,本電極を用いた光アドレス刺激の空間分解能を推定する[研究の目的]

 

 

考察の記述例1

本研究では,ラットの大脳皮質において,VNSによる神経活動の同期を調べた[ます結果を要約する]。計測には,4 mm角に10 × 10 個の計測点を有する電極アレイを用い,アレイ内の局所的な同期を解析対象とした。その結果,計測領域内の位相同期は,VNS直後に急激に上昇し,刺激終了後,30分程度で刺激前の水準に戻った(図4 (a))。VNS直後の位相同期の上昇は,刺激電流値を0.5 mA,刺激周波数を10 Hzとしたときに最大となった(図4 (b))。VNSによる位相同期の上昇は,alpha帯域以外では,1.2 2.0 mmの中距離で,alpha帯域ではそれ以上の長距離で最大となった(図5 (b))。高い周波数帯域 (gamma帯域) では,VNSによる位相同期の変化は,聴覚皮質内で聴覚皮質内外よりも顕著だった。逆に,中周波数帯域 (low-betaalpha帯域) では,聴覚皮質内外で聴覚皮質内よりも,VNSによる位相同期の変化は大きかった。

 

位相同期の変化は,LFPの振幅の変化を反映する可能性がある[手法の妥当性を検討する]特にLFPの各帯域の振幅が小さいと,瞬時位相が不明瞭になり,その結果として,PLV値も減少するため,振幅と位相は正の相関関係になる。しかし,本実験の結果ではVNS刺激後に,パワースペクトルの値は増加しておらず,周波数帯によっては,逆に有意に減少した(図4 (c))。したがって,上記実験で報告した同期度の増加は, LFPの振幅を反映しているわけではない。

 

てんかん発作は,脳の神経活動が異常に同期する疾患と考えられてきた[先行研究と本研究の関連性を議論する]。したがって,VNSは脳の神経活動を脱同期化し,てんかん発作を抑制すると考えられる(16)しかし,近年では,神経活動の同期がてんかん発作を停止させる効果があることが示唆されている(17)。本研究では,VNSにより位相同期の上昇は,gamma帯域で最も顕著に認められた(図4 (b))。gamma帯域における同期[主語は前文のキーワードを継承]は,GABA作用性抑制性介在神経の亢進に由来することが知られている(18)したがってVNSは,GABA性の抑制性介在ニューロンを活性化させることで,てんかん発作の抑制に寄与している可能性がある。一方,VNSにより,聴覚皮質のマルチユニット活動は非同期化することが報告されている(6)これは,抑制性神経活動の亢進が,興奮性の錐体細胞の発火を非同期化させる効果があることを示唆する。なお,このようなマルチユニット活動のVNSによる非同期化は,コリン作動性ムスカリン受容体を介在している。また,アセチルコリンは,マイネルト基底核から供給される。この神経核は,VNSにより直接的に活性化されるわけではなく,青斑核からの投射を介していると考えられる。[接続詞や指示語を効果的に使えば,各文の関係がわかりやすくなる]

 

VNS直後の位相同期の上昇は,刺激強度や刺激周波数の増加に伴うわけではない(図4 (b)[実験結果を復習し,そのメカニズムを先行研究の知見と照らし合わせて議論]その原因の一つとして,迷走神経内のC線維の作用が考えられる。同線維は,高電流でのみ活動電位を発生するが,その際,脳波の脱同期を引き起こす (19)(20)。本実験でも,刺激電流値が1.0 mA以上の条件や刺激周波数が30 Hz以上の条件では,C線維が活性化され, LFPの脱同期 [前文のキーワードを継承]を引き起こした可能性が考えられる。ただし,本研究での解析対象は,VNS開始直後の位相同期に限定した。図4 (a)のように,1.0 mA以上の刺激条件では,位相同期の上昇はVNS開始直後ではなく,VNS終了後,しばらく経ってから認められる [例外も正直に丁寧に記述]したがって,弱いVNSと強いVNSでは,作用機序が異なる可能性もある(21) [主張を明確に]

 

VNSにより,gamma帯域では,聴覚皮質内の位相同期 (AC-AC) が,聴覚皮質内外の位相同期 (nAC-AC) よりも上昇した(図5 (b) (v), (vi)[実験結果を復習し,そのメカニズムを先行研究の知見と照らし合わせて議論]gamma帯域の神経活動[前文のキーワードを継承]は,GABA作動性の抑制性介在ニューロンにより調整された局所的な神経活動を反映する (18)これらの介在ニューロンは,視床からのフィードフォワード入力を受けている。聴覚皮質内のニューロンには,聴覚系の視床領域,すなわち,内側膝状体から支配的なフィードフォワード入力 [前文のキーワードを継承] があるので,この入力が強くなれば,聴覚皮質内の位相同期は,聴覚皮質内外の位相同期よりも強くなるはずである。また,視床から皮質への入力は,コリン作動性の受容体によって調整されており,アセチルコリンが供給されると,内側膝状体の腹側核から一次聴覚野への入力が亢進される (22)これらの知見を整理するとVNSが,マイネルト基底核を介して,コリン作動性の神経系を活性化し,それにより,内側膝状体の腹側核から聴覚皮質へのフィードフォワード入力を選択的に亢進させたと考えられる。このようなフィードフォワード入力の選択的な亢進は,gamma帯域において,聴覚皮質内の位相同期が聴覚皮質内外の同期よりも上昇した現象を説明できる [主張をまとめる]

 

逆にalpha帯域やlow-beta帯域では,聴覚皮質内外の位相同期が,聴覚皮質内の位相同期よりも上昇した(図5 (b) (ii), (iii))。Gamma帯域のような局所的な情報処理とは異なり,低い周波数帯域の位相同期[前文のキーワードを継承]は,異種感覚統合や注意のように,様々な領野にまたがる広域的な情報を統合するために用いられると考えられている(23), (24)したがって,本研究の実験結果は,VNSが,局所的な情報処理に加えて,領野間の広域的な情報処理にも影響を及ぼすことを示唆するが,そのメカニズムは未だ不明である。特にVNSは,青斑核や縫線核を介して,ノルアドレナリンやセロトニンを分泌させるので,これらの神経修飾物質が神経活動に及ぼす影響の解明が,今後,期待される。[今後の課題で締める]