発表資料の作り方の例

研究発表では,聴衆に対して「理解してほしい」,「興味をもってほしい」という熱意が大切です.スライドに含まれる情報は同じでも,字ばかりだと熱意は決して伝わりません.聴衆の興味をひきつけるためには,聴衆の気持ちになってスライドを作るサービス精神が発表者には必要です.

実験結果と考察は発表内容としてもちろん重要ですが,発表の力量や熱意は,むしろ,そこに至るまでの背景と手法の説明でわかります.ある学生が初めて発表資料を作成したスライドと,発表練習後に劇的に改善した例を示します.どうすれば魅力的なスライドを作れるか,自分のスライドでも考えてみましょう.

 

発表の概要(講演論文より):

本研究では,統合失調症のモデル動物として,MK-801をラットに投与し,知覚に関わる神経活動の変化を調べた。具体的には,ラット聴皮質から神経活動を多点同時計測し,MK-801が,聴皮質の周波数局在構造と誘発電位,MMN,自発活動に及ぼす影響を調べた.その結果,

(1) MK-801投与前後で,各計測点の特徴周波数に大きな変化はみられなかった.

(2) MK-801投与後,聴皮質4層において,P1の振幅と自発活動の強度が,それぞれ0.16倍,0.66倍に減少した.

(3) MK-801投与後,聴皮質表面において,P1MMNの振幅が,それぞれ0.36倍,0.33倍に減少した.

(4) MK-801によって,聴皮質4層におけるP1の振幅が,聴皮質表面よりも大きく減少した.

(5) 聴皮質4層では,MK-801によって,特徴周波数 (CF) 近傍の音に対するP1よりも,特徴周波数から1オクターブ程度離れた音に対するP1が,より大きく減少した.

これらの結果は,NMDA受容体の阻害によって,聴皮質の神経活動レベルが低下することを示す。また,神経活動レベルの低下が,聴皮質の層や,神経細胞の特徴周波数に依存することを示唆する.

 

出典:吉田雄紀,白松(磯口)知世,野田貴大,高橋宏知:「統合失調症モデル動物における聴皮質の応答」,電気学会研究会資料 医用・生体工学研究会MBE-14-025~040: pp. 39-44, 2014 (東京,2014321)

 

初めて作ってきたスライド

発表練習でのコメントを踏まえて推敲したスライド

 

コメント:

l  字ばかりでつまらない.

l  1枚目がつまらないと,最後まで聞いてもらえない.

l  サービス精神が足りない.

l  自分が聴衆なら,聞きたいと思うか?

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コメント:

l  言葉で言っても,何のことかサッパリわからない.

l  トノトピーとか,ミスマッチ・ネガティビティとか,専門家でない人でも何となくイメージできるように工夫してみよう.

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コメント:

l  相変わらず文字ばかりで飽きてきた.

l  ぱっと見て,すぐに理解できるように工夫できないか?

コメント:

l  手法を詳細に説明しても,多すぎて覚えられない.

l  もっとポイントを絞ったほうがいい.

l  詳しい説明よりも,何をやったかの全体像を伝える工夫が必要

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コメント:

l  加工したデータではなく,生データから始めたほうがいい.

l  レイアウトに縛られすぎていて,絵が小さくなってしまった

l  字が小さいことろがある

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コメント:

l  何と何を比較したかがわかりにくい.

 

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中略

 

 

中略

 

コメント:

l  最後に,結局何を言いたいのか?

l  詳細な実験結果より,発表を通じてのメッセージを明確に.

l  「御清聴ありがとうございました」というスライドより,まとめのスライドをもっとゆっくり見ていたかった.